第145話

「今上帝に限って嘘は申されますまい?決して后妃はお持ちになりませぬ」


「どうしてそなたはそう言い切れる?まさかそなたは先が見えるのか?」


「私には見えるのでございます。皇后様は、今上帝様の御子様をご誕生になられます。そしてその御子様は、青龍を抱きし天子となられるのです」


「なんと?」


女官は大きく見開いたその瞳に潤みを再び溢れさせて、口元を緩めて女官神楽の君様を見つめた。


「そなたのその言葉は忘れぬ……」


そして大きな筋を作って滴を溢した。



そんな皇后様の側近中の側近女官に、確固たる信頼を得られた女官神楽の君様は、心酔する陰陽博士の命を受けているという事で、内裏の怨霊探索の許し処か、諸々の女官女房達からの情報まで得る事がおできになられるようになられた。

なんと云っても、ソツのないお方であられる。

そしてここの処の常の様になっている、深夜の内裏探索に勤しんでいられる。

何せ人間と瑞獣の血をお引きになられ、先は神と約束されておいでのお方だから、怨霊など何ともお思いになられない。手燭てしょくをお持ちになられて探索されておいでであられたが、飛香舎ひぎょうしゃまたは藤壺と呼ばれている建物の庭にある、藤の木を認められた。


「そなた……」


今宵は月が雲に隠れて暗い。

手燭をかざされて藤の木を見つめられる。


「数多のもの達を見て参ったであろう?」


白く細いおよびを樹皮に持って行かれた。


「女の泪は哀れよの……だが、怨念ははるかに哀れよ……そなた、を存じておるなら、教えはくれまいか……?」


女官神楽の君様は妖しくも、藤の木にもたれる様に伺われる。

垂髪すいはつに十二単衣お姿の女官神楽の君様は、手燭の妖しい光に微かに映し出されて、まるで藤の木と一体となられておいでの様だ。

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