第144話

「……長く内裏におると、の事は聡くなる。さしもの上皇様とて、幾人かの后妃様はおいでであられたからな……お若気の至りと申せ、今上帝様は皇后様のみとお誓いくだされましたが、それは皇后様が御子様をなしての事でございます。この様に妻としてのお務めが、おできになられぬ以上……やっとやっと……長きに渡ってのお思いが叶ったと申すに……なんとお哀れなる皇后様であろう……」


 女官はさめざめと、涙を流して言った。


「皇后様はさほどに、今上帝様をお思いでございますか?」


などと言うものではない。それはそれは……。ご誕生から主上様の妻なのです。仮令大人達の思惑でなった事と言えども……。なんと大人達はむごい事をなされる。大人となられたから苦しまれるのです。童であられれば、は深い意味など持たずに、ただただ思っておられればよいのです。さほどにお苦しみになる事はなされぬのです。それが大人になり、知ってしまわれたらお苦しみになられる。童のままでおられれば、草子の中のお二人の様な夢を描いて、思い焦がれるだけでおすみになられるものを……あたら大人となるを急かされ、大人とされて心身ともに苦しめられる……。皇后様はご利発なお方ゆえ、主上様にお望みをおかけできぬ事は重々ご存知で、ただお胤をお授けくだされるだけで身の幸せ、とそうご自身に、言い聞かせておられる様なお方なのです。それが一言ただ一言主上様に、他に后妃を持たぬ、とそう寝物語りにお言葉を頂いてしまわれた。それは皇后様にとって、身に余る程のお幸せなのです……それが……お目覚めになられた折に、そのお言葉が嘘であったと知られたら……」


「嘘ではありませぬ、今上帝は嘘は申しますまい?」


 女官神楽の君様は、お声を荒げて言われた。

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