第143話

 女官が怒った顔をしていた時には、如何したものかと、ドギトキとされた神楽の君様であったが


 ……なんと役に立つ琴晴よ……


 と、それは内心琴晴を称賛される。


「……して?そなたの見立ては、如何なものでございますか?」


 賢い女官は、すぐさま重要用件を突きつける。


「……悪しきもの邪道なるものの仕業やと思うておりましたが、さようなものでは無い様にございます」


「はて?ならば直ちに、お目を覚まされるか?」


「その様には、いかぬ様にございます……」


「如何致してだ?」


 女官は期待に反する女官神楽の君様の言葉に、顔容を歪めた。


「私が思っておりました、悪しきもの邪悪なるものの方が、いとも簡単に片が付きますが、そうではなくお見受けいたせば、真の理由を探さねばなりませぬ……それには暫しの時を要します」


「なんと?陰陽博士様が、信頼を致すそなたでもか?」


「はい。女官様、私は陰陽博士にはそれはそれは、信頼を頂く者でございますゆえ、暫しのご猶予をくだされませ」


「……それは致し方ないが……」


 女官はそれは憂鬱げに、皇后様をご覧になられた。


「疾くお目をお覚ましくださらねば、さすがの今上帝様も、他所にお目を向けられるやもしれぬ」


「……それは如何な事でございます?」


「さすがに摂政様のご威光で、今は誰も仰せられぬが……御子様を頂けぬ……いやいや、妻の夜の務めを果たされねば、他所のものにとって代わられよう……」


「…………」


「以前の主上様であられれば、女体にご興味がない……でおすみであられた事だが、あれ程にご夫婦仲睦まじい処をお見せになられたのだ、大臣様方とて欲を出すというもの。第一主上様が、お独り寝はお淋しかろう?如何であろうか?……」

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