第141話

 なんともこすっ辛い人間だから、悪知恵だけは回ってしまう。

 そして妙な経緯でコンビと相成った典侍ないしのすけ様は、それは才女だが強欲だから〝お手柄〟の餌が大好物だ。

 有り得ない事だが女では無い神楽の君様を、女の世界に潜入させる事が二度もできてしまった。

 琴晴は我が身の安泰を、只々願うばかりだ……。



 女官神楽の君様は、浜床はまゆかという黒漆の台が在る御帳台みちょうだいに、お休みになられる皇后様を覗き見られた。


「そなた何を致しておる?」


 皇后様付きの幼き頃からお側に侍る女官が、お許しも無くとばりを上げて、皇后様のお側に侍る無礼なる新人女官を睨め付けて声を張った。


「畏くも皇后様のご寝所に、そなたの様な者が?」


「も、申し訳ございません……私は陰陽寮より、神のお力を頂いて参った者でございます」


「なんと?その様な者聞いた事もない」


 それは訝しげに、渋面を作って睨め付ける。


「う、嘘ではございません。私は畏くも神様より皇后様をお護り致す様、仰せつかって参った者でございます」


 もう二度目ともなられれば、神楽の君様もお抜かりなくおこなしになられる。


「はっ?ならば高々の巫女であるのか?……巫女ならば神祇じんぎの者であろう?陰陽寮とは如何な事である?」


 さすが女官だ。そこの処の突っ込みにソツが無い。

 女官神楽の君様は、かなり頭が回る女官を頼もしく思われる。


「先日手柄をお立ての、陰陽寮の陰陽博士をご存じで?」


「あーああ……安倍琴晴様であろう?」


 女官は長年主人たる皇后様が思い焦がれておいでの、主上様との初夜の儀においての功労者である、琴晴に羨望の念を持っているから、少し険しい表情を和らげて見せた。

 この女官にとって、皇后様が待ちに待たれておられた、愛する主上様との真のご夫婦となる望みを叶えられたは、琴晴の手腕が物をいっていると信じているから、琴晴に対する評価はかなり高い。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る