第139話

「我が母君様が、上皇様をそそのかしてお付けになられた。我が名が主上はよ……」


 ………朱麗と蒼輝……実に美しい御名だ………


 高貴なお方々は、御名を他言致されない。

 御名は霊的な人格と結びついているとされ、その名を呼ぶ事は霊的人格を支配できるとされる、此処中津國での習俗によるものであるが、神である神楽の君様にとったら、そんな言い伝えなど取るに足りない物なのだろう。

 身分の低い琴晴に、事もあろうか貴いお二人の御名を教えてくだされた。


「我がらんは、鳳凰から誕生致し瑞獣ずいじゅうだからな……鸞は青い羽を持つ……雄が〝鸞〟雌が〝和〟と呼ぶと諸説有るが、そんなものは真実では無い。ただ鸞は鳳凰から太古の昔誕生致し、羽が青く、恐ろしい程に愛に貪欲だ。そして鳳凰は、五色と言われているが赤が強い。ゆえに私は朱と言う名を頂き、主上はお母君様が、どうしても蒼とお付けになられたかったのだ。我ら鸞が愛する天子と、したかったのであろう……」


 神楽の君様の青月を仰ぎ見られる、眼差しが熱く潤んでおられる。

 お愛おしき弟君様を、想われて熱く潤まれる。

 琴晴はそのソツのない処世術で、お妃様からのミッションを理解した。


「神楽の君様。皇后様は未だ解らぬままに、お眠りのままにございます。また、内裏の霊は相も変わらず、女房達を脅かせております、神楽の君様に、できますれば手助けを頂き、霊の正体をお確かめ頂きたく存じます」


「霊の正体か?そなたでも神祇も解らぬのか?」


「神降ろしなど、お妃様や神楽の君様がお出での今生で、よく恥ずかしくもなく致せるものでございます」


「はっ?そなたの世渡りの上手は本物であるな?よくもぬけぬけと、おべっか使いをいたすもの」


「おべっか使い、ではございません、真意にございます」


「解った解った。どうせお母君様に、内裏に上がれと申されておる。そなた良き様に手配を致せよ。お母君様はかなりの我儘者であるからな」


 神楽の君様は、大きくため息をお吐きになられながらも、な青月に再び視線をお送りになられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る