第138話

 さてさてさて……。

 陰陽寮の陰陽博士は、またまた後院のお妃様にミッションを与えられた。

 なんと神楽の君様を……をだ、女官として内裏に上がらせよと言われる。

 なんと無理難題を、こうも課せられるものよ。

 一応、だが、内裏は皇后様を始めとした后妃様方が座し、今上帝様のご寝所も在る。

 其処に親王様であられる神楽の君様を、女官として上がらせる……とは、如何いう事だろう?女官?女官?女官?……まっ、巫女として送り込めたのだから、どうにかなるのか?

 琴晴はなんとも落ち着き慣れない、それはデカすぎる屋敷の母屋もやで考えあぐねている。


 神楽の君様の元で修行中の、神使見習いの黄砂が、それはいろいろと謂われはあるが、実に心根の良い使用人を見繕ってくれたお陰で、とても立派なお屋敷の主人となった。

 舎人は居るし女房も居るし、車宿も立派で牛車も牛飼童うしかいのわらわも前から居る者以外に増えた、厩には馬達に合ったが増えて、人間だかそうじゃないかも?的なもの達がごった居る。

 式神など使えるから、元々同じ様な物ではあるのだが……。

 そしてなぜか東の対屋たいのやは白がしばしば使っているし、其処に神楽の君様も来たりする。

 主人は琴晴という事だが、神楽の君様のお屋敷という感は否めない。

 まっ、所帯なども持たずに、未だに通い婚の琴晴だから、別にどうでもいいのだが……。


 今宵も今宵とて……神楽の君様がひさしにお座りになられて、大きな青月を愛でられておられる。


「琴晴、俺は青月が好きだ」


「青月にございますか?」


「蒼白く輝くであろう?あれを見ると主上を思い出すのだ」


「今上帝様でございますか?確かにあの輝く様は、天子の輝きでございます」


「違う違う。主上は蒼輝そうきと言うのだ……」


「あ?」


「青月にご誕生ゆえに、蒼輝なのだ」


 神楽の君様は、それは潤んだ瞳をお向けになられて言われた。

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