第137話

 神楽の君様はお妃様を見つめられて、しみじみとお思いになられる。

 そのため息は、如何なものなのだろう?

 散々散々、女になるか否か悩まされ……。

 女となれ!と言われるから悩まされ……。


 蒼輝が望めば、とまで思い詰めたのも、この母君様ゆえではないか?

 ……違うか?これは母君様が命じたからではない、心底神楽の君様の御心が願われた事だ。

 ……だが、ご自身のお気持ちに気づかれるまで、それはお悩みになられた。

 は母君様のお言葉ゆえだ。なのにこのため息は?如何してなのか?

 神楽の君様は、物凄ーくお思いになられた。


「朱よ」


「あっ?はい」


「そなたは今暫し、蒼と修行を重ねねばなりませぬな」


「蒼と?主上も致すのでございますか?」


「ククク……朱よ、恋愛とは一人では成せませぬ」


「へっ?恋愛でございますか?」


 またまた、難儀な言葉が現れた。

 聞きなれぬ言葉に、神楽の君様の眉間に皺が寄る。


「そなたには真実困ったものよ……我がらん族で、そなた程に淡白なものがおろうとは……」


「何を?到底淡白とは申せませぬ。蒼の御心が欲うて堪りませぬ……」


「……が、皇后との事は淡白ではないか?私など上皇様の全てが譲れぬ、夜の事など思うただけで身が捩れる程です」


「???皇后とは、御子様を成さねばなりませぬ。それだけの事でございます。それは天理、天が望むものは致し方ございません、自然の成り行きにございます……それ以上を蒼が望まば、私とて忿怒致します」


「ほう?この私が、そなた如きに教えられるとは……?確かに道理です……ならば、その思いを一層と深める様、お二人で修行致されませ」


 お妃様はニヤリと、そのお美しい顔容かんばせを、御崩しになられた。


「陰陽博士に命じて、そなたを女官として内裏に送りましょう程に……」


「へっ?」

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