第133話

「皇后が臥せたそうだが、そなたは如何思う?」


 お妃様は後院の母屋で、繧繝縁うんげんべりの畳に座されて、御几帳みきちょうなどもお立てにならずに、高麗縁こうらいべりの畳に座されておいでの、神楽の君様を直視されて問われた。

 上皇様は参内されて、皇后様をご案じの今上帝様を見舞っておられる。


「私は祕導師を疑っております」


「祕導師……祕導か?」


「法界仏にございます……」


「あの方々は、ややこしいお方々だからな……」


「単純明快な大神様とは、異なるお方でございます」


「……大神様が真理です。万物など簡単明瞭な物、ややこしく致す必要はございませぬ。……世はこの星の為に在る。神仏は星と宇宙の為に存在致すもの、それに依存せしもの達が、均整を保たせるが神仏のお役目、ただそれだけです。他に何が必要か?」


「母君様……」


 神楽の君様は、珍しく興奮気味となられたお母君様を制止される。


「……まぁよい……祕導師達か……なるほど?思いもよりませなんだ、であらばは許される……」


「…………」


「よいか?かの昔の帝が、こよなく愛された大師です。そのご寵愛を忘れる方が理に合わぬ。摂政のいたせし事は、天孫の血を受け継ぐ天子に対する冒涜よ。天翔る天子の両翼をいではなりませぬ……しかしながら……」


 お妃様は、至極真顔をお作りになられた。


「青龍を抱きし者ならば、致し方ございませぬ」


 神楽の君様が、重々しく言われる。


「……ゆえに……姫か?……今生は実にくだらぬ世でございます。欲を欲する大臣ものは我がを入内させ、貴きお方の血を頂きし御子を得て出世する。名も無き者ですら致す。見目麗しい娘を、少しでも官位の高い者にあてがって出世を狙う。只々血眼でおのこを欲するは此処内裏のみ。天子のみです……なるほどのぅ……姫の誕生を妨げておるか……」


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