第132話

「その為に……今上帝に差し出す為に、皇后が誕生致すを待っての入内であった。面白い事にその後、摂政に姫は誕生していない。一族にもそう存在ない。お陰で俺の異母妹達は、摂政の息子達に押し付けて、正妻の座に在るらしいが……摂政の子ならば、そなたの様に労する事も無く殿上人だ……この世の栄華を謳歌できる」


「ま、まさか……皇后様を?」


「今上帝が他に女は要らんと宣言したのだ、どうやって今上帝に皇后以外の女をあてがう?」


「しかしながら……」


「……ならば、誰ができる?」


 琴晴は、神楽の君様を凝視する。


「陰陽寮以外で……」


「そ、それは……」


修法すほうか?神祇じんぎか?祕導か?」


「神楽の君様?」


「祕導は宮で最も重要視されている聖域だ。かの昔の帝が愛された大師を、それは大事とされているからな。祕導院は陰陽寮より神祇官より密教より内裏に近く存在する……つまりだけは摂政の所業を許してはおらん。大師を殊の外尊重し愛して来た帝の、両翼をもぐような所業を許すはずがない。これ以上摂政家のこの世の春は、決して認めぬだろうと言う事よ」


 祕導は他国から導入した密教から、我が国特有に教えを導いた仏教で、かつての帝が開祖となった大師をこよなく寵愛した事で、ただ帝だけの為の存在だ。


「あー、まさか……」


 琴晴は生唾を飲んで軽く頭を振ったが、それから直に皇后様が寝込まれた事を知った。


 皇后様はずっとお目覚めになられず、眠り続けられておいでになられる。

 医師くすしが呼ばれて診るが、さっぱりと原因が解らない。


 ……何だか以前にもあったシチュエーションだ………


 と思うのは琴晴だけだろうか?

 当然の事ながら陰陽寮も占ったり、知りうる限りの知恵を振り絞るがことごとく違っている。

 神祇が巫女に神降ろしなるものをするが、全く効果などあり得ない。

 修法師達が加持祈祷を、盛大に行っているという噂が流れるが、そんなの何の役にも立たない。

 つまりお手上げ、という事になった。

 何だかんだと何処かで見た光景だ……と琴晴は身慄いする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る