第131話

「おっ?まぐわう事であるか?……銀悌よ、意外とそなたも助平だな……」


「いえ……我が君様。君様の御心が……」


「……ならば気に致すな。確かには辛かったが、今上帝の御心が知れて気が済んだ……我ららんは、真に愛情と言うものに重きを置くものだ。仮令躰が他に在ろうが、御心が此処に在らば気にならん。それが解るのだから不思議よ。互いの心がまぐわうた瞬間に、躰のまぐわいはどうでもよいのだ、ただずっとの御心を欲する。それは離れていようが解るのだから難儀なものよ。今上帝が如何様な御心で皇后を抱くかが解る。それは何と背徳な事であろう……。皇后を哀れと思えど、嫉妬など持ち得ようはずも無い」


「それをお聞きして安堵いたしました」


 銀悌は徐ろに、頭を垂れて言った。

 琴晴は呆気にとられて盃を持ったまま、何時もにも増して美しさを増させられる神楽の君様を見つめた。


 ……不思議な存在だ……


 と思う。美しく気高く愛情にだけ、重きを置く瑞獣鸞という存在。


「……で琴晴。陰陽寮としては如何致すのだ?」


「如何?と申されましても……」


「俺が言うのは、皇后が、霊に影響を受けぬかという事よ」


 神楽の君様はえらく真剣なご表情を、お向けになられる。


「ここに来て遅滞しておられたご夫婦が、やっとこさ真のご夫婦となられた矢先の霊騒ぎは、傍目八目……渦中と言ってもよいそなた達宮中の者でない者には、怪しいというよりも胸糞悪いを感じさせよう……」


「えっ?いや、神楽の君様。今や今生天下は、畏れ多くも言葉にはできぬものでございますが……」


「摂政の天下よ……だがまだ万全では無い。まだだ。今上帝の御心一つでまだ変わる……いいか琴晴。摂政には皇后以外に年頃の姫はいない。これは何故か?」

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