第130話

「……ところで、黄砂が奮闘致しております内に小耳に挟んだのですが、内裏ではあやしき霊が出没致し、女房女官達を脅かしておるとか?」


「内裏で?あそこは原来そういう処だろう?内裏は女達の……大内裏は男達の怨念が渦巻く処だ」


「さようにございます、怨霊も生霊もおります所にございます」


 神妙に琴晴が、一応陰陽博士らしく頷きながら言った。


「……では、陰陽寮も忙しかろう?そんなこんなに……主上と皇后の……いろいろと?」


 あっさりと気にも留められずに、言ってのけられる神楽の君様に、琴晴と銀悌が呆気にとられて見入る。

 本当に、お気に留めておられ無いのか?

 二人の感想だ。相思相愛を認められたお方が、思い人であられる今上帝様が、皇后様とあれやこれやとなさる行為を、気にせずにいられるものだろうか?


「あー。悪霊におきましては……」


修法すほうか?」


「あー。ご本山にて……」


「何だ?琴晴歯切れが悪いな?」


「あ、いえ……」


「神楽の君様。琴晴殿は、神楽の君様がお思い人であらせられる主上様が、皇后様と夜を共にされるを、真にお気になされておられぬのか、気を使われておられるのでございます」


 銀悌は己が気にかかっている事を、琴晴の事として問い質した。

 ずっと大事にお育てした君様だ、それは気になるしお気にしておいでなら、晨羅に相談する手もあり得る。

 若きお二人ゆえに、傷つく事は極力お避けしたいが本心だ。


「主上が皇后と夜を共に?うーん……それは厭であるがご夫婦なのだ。仲睦まじくして頂き御子様を御授かりしたい」


「……それを君様がしたいと、お思いになりませぬか」


「銀悌よ。それは如何な意味であろう?子を成す事であらば……」


「いえ!さようではございません」


 銀悌は琴晴を認めて、慌てて言葉を遮った。

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