第129話

「さてと……」


 月が傾き始めると白は、ソワソワと立ち上がる。


「そなたの時間とやらか……」


「まぁな……」


「あー白殿……」


 二人にしないで……と言いたかったが、そんな琴晴の気持ちなど、完全無視で行ってしまった。


「はぁ……」


 とため息を吐いていると、瓶子に酒を抱えた銀悌がやって来た。


「替えをお持ち致しました」


 琴晴のホッとした表情を見て取って、銀悌はクスリと笑う。

 あの夜……。

 今上帝様が嫉妬にお苦しみになられて、形振りを構われずに我が屋敷にお越しの時に、銀悌は今上帝様の乳兄弟の晨羅から、その切なくも苦しげな御心を知らされた。

 恋情をお持ちになられない、独神の大神に仕える銀悌であるので、どちらかといえばには疎い方だ。そんな銀悌がお育てした神楽の君様は、それはには疎くうぶであられ、殊の外純朴であられる。

 だから、弟君様へのお気持ちは強いが、そのお気持ちを恋情に変えるを酷く恐れられた。

 それはひとえに銀悌の手落ちとしか言いようが無くて、もっと早くそのお気持ちを、正しい方向に持って行って差し上げるべきだったのだが、それができなかった事に深く反省をしている。ゆえにこれからはできうる限り、疎過ぎる神楽の君様が決してこの間の様に、今上帝様を苦しめる事をなさらない様に、気を配っていかねばならぬと肝に命じた。


「私も一献、頂いても宜しゅうございますか?」


「おっ?銀悌。そなたと一献傾けるは、久方ぶりである」


 神楽の君様は至極お喜びになられて、わざわざ瓶子を傾けて、銀悌の盃に注ぎ入れられた。


「なんだ?黄砂も共に致せばよいものを?」


 神楽の君様のご概念に、身分の差は無い。

 ただ愛しき従者という、身内が存在するだけだ。


「黄砂は此処の手配に奮闘しております……。不運なる者や虐げられし者達を、琴晴殿にお救い頂くが為に……」


 銀悌は何時もと変わらずに、物静かに言った。

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