第128話

「……神楽の君様……」


 琴晴はひさし円座わろうだに座して、銀悌の酒をお飲みになられる神楽の君様に、それは申し訳なさげにお声をお掛けする。


「なんだ?」


「あーいえ……と言う事は、今宵此処にお泊りのおつもりで?」


「おっ?」


 神楽の君様は唖然とする様子で、恐縮したりの琴晴を見つめられる。


「あー実は……」


「今上帝か?」


 白はそれは面白そうに突く。


「はい実は……命があっただけ幸せ……な状況と相成りまして」


「はは……今上帝は実にじゅに御執心よ。あれ程血相を変えて来るとは……」


「へっ?」


「そなたが朱の屋敷に泊まりーの、神山に行きーの……かなりの御憤おいきどおり……ってヤツだろう?」


 琴晴は思い出しても恐くて、思う存分と頷き続ける。


「あれは痴話喧嘩?いやいや、ただの嫉妬心だ。朱が一言そなたには恋情は持ち合わせぬと言い、そなたに恋情を今上帝に持っておると言えば、それこそ〝あっ〟と言う間に丸く収まった」


「え?ええ?」


「だから相思相愛の二人には、〝あっ〟と言う間に鞘に落ち着く、が存在いたすと言うもの」


「あー?」


 琴晴は何故あんなに今上帝様から激怒され、それを必要とされたか納得した。


 ……だから厩か?馬なのか?……


 とされた琴晴のご褒美に、この広いお屋敷になのか?洒落ておられるのかどうか、理解も付かないってヤツか……。

 琴晴はかなりの出世を約束されているようだが、さてさてそこまでこの身が持つのかと不安を持った。

 一体これからどれだけの、身の危険を冒させられるのか……只々今上帝様と神楽の君様の絆を強めるが為だけに……?


「はぁ……」


 思わず琴晴は、ため息を大きく吐いた。


「安心致せ。そなたは私の唯一の人間の友である事を、主上に納得させたゆえ」


「有り難き幸せでございます」


 なぜか疲れた声となった。

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