第125話

 さて、陰陽寮の陰陽博士の琴晴は、何を自分で仕出かしたのか、何が今上帝様の意に召されたのかは、全くもって解らぬまま、それは身に余るお屋敷を賜ってしまった。


 ……なぜだ……


 と思案するが、全くもって解らない。

 どちらかといえば、物凄ーく御不興を買って


「命が有るだけでも、幸いでございます」


 と、今上帝様の乳兄弟である晨羅に言われた程だから、クビになって路頭に迷うか首が飛ぶか……。とハラハラオロオロ、後院のかのお方様に泣きを入れた程であったのに、なぜどういう経緯で?こんな身に余る代物を、頂けているのだろうか?

 陰陽寮はといえば、それは有名な陰陽師が存在するから、公卿殿上人とか貴族とかに、それは重宝に使われてはいるが、官位的地位的にはそんなに高いわけでは無くて、有名人ですら従四位だったのだから、従一位正一位とのし上がっていく官位を考えれば、低いのは解るというものだ。

 で、今の琴晴は陰陽博士であって、正七位の下であるから全然ペエペエで、それこそ今上帝様に謁見できる身分で無い事は明白で、それを無理くり感で謁見て、下手をすれば首が吹っ飛ぶ所だったのだから、かのお方様からしてみれば、下衆の琴晴の命など、そこら辺を這いずり回っている虫けら同然という事か。

 などと、寝殿造の北・東・西の対屋たいのやなど立派な物がくっ付いて、さすがに壁の無い透渡殿すきわたどのではあるが、建物を繋ぐ渡殿わたどのがあって、プチ豪華な庭園に池まであって、池に突き出る釣殿つりどのに泉殿が在って、中門には車宿くるまやどが在って、そしてなぜか立派な厩……厩?厩?厩???

 見れば見る程立派な建物を見ながら、一人愚痴ったりしている。


 ……はあ、こんなに広い物を賜ってしまったら、高々の式神でこさえた女房使用人とはいかないじゃないか……


 貧乏人の貧乏人たる貧乏な独り言だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る