第124話

 ずっとずっと、そう言われて育った。

 ゆえに自分は、父摂政の欲望を果たす駒であると知った。

 その為だけに生を受け、その為だけに大切にされる。

 父摂政をいとう主上様に無理くりお胤を頂いて、親王を成し欲望を果たさせる。

 だから大人の女性としての証が有り、裳着もぎの儀式を済ませたとしても、主上様は初夜の儀を滞らせになられる。摂政の娘を厭われ枕を共とされたがらない。

 その内……その内、主上様のお目に留まった女官か女房が、あの恋い焦がれてやまぬ、大きくて逞しいかいなに抱かれるだろう……だが、自分はただお役目の為だけに召され、お厭いになりながらお胤をくださる。

 ただそれだけと思って育った。

 大好きな草子の様に、お優しいお言葉などあり得ない。慈しみ愛おしむお言葉など頂けぬと……。

 それが初夜の儀のお優しさと、それ以降にもお厭いもなくお求め頂き


「御子を成せば、他に后妃を持たぬ」


 とお誓いくだされた。


「皇太后様のような、哀しきお立場にはせぬ」


 とまで仰せくだされた。


 確かに女官達が言う通り、そんな立場の自分が、これ程までのお言葉を頂き、お求め頂いて、それ以上の幸せはあるはずは無い……。

 無いのに不安が募る。

 思ってもいなかった事を、仰せ頂いた喜びが大き過ぎて、その先に隠れているかもしれないに怯えてしまう。

 余りにもの幸福感に酔いしれてしまったから、今上帝様の真意を知るのが恐い。

 ただ此の内裏だけでは飽き足らずに、全ての今上帝様を、独り占めにしたいと望む己が恐い。を失うが、恐ろしくて堪らない。


「今宵は、お召し頂けるであろうか……」


 皇后様は、櫻の柄の脇息きょうそくにもたれて問われる。

 誰ともなく問われる。

 只々主上様への恋慕が、お増しになられるばかりだ。

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