第123話

 皇后というお立場は、皇太后様がずっと堪え続けられたお立場だ。

 皇太后様は、東宮様であられた上皇様の東宮妃様となられた。

 ご成婚の砌には、お二方ともご成人されておられた事もあり、それは盛大な儀式が執り行われたと、女房女官達の間で語り伝えられている程だ。

 だが、そんな皇太后様……東宮妃様には、もはや他に女御がお二人おいでになられた。

 一人は東宮様に禊ぎをした手慣れた女官で、もう一人は東宮様の身の周りの事をしていた女房であった。

 ゆえに皇后様とは違い、皇太后様には上皇様を、お独り占めされた経験がおありになられない。

 嫁いだその時から、他のもの達と上皇様の愛を、分け合うお暮らしを強いられたのだ。

 そして上皇様は、なかなか御子様を御授けになられる事は無かった。

 あの眩ゆいばかりにお美しい、瑞獣の后妃様がお現れになるまでは……。

 后妃様は、かしずく女達がお授け頂けぬ御子様を、いとも容易く頂きそして他の后妃様達にも、御子様を得られる喜びをお与えになられた。無論当時皇后様であられた皇太后様にもだ……。

 そしてその後上皇様は、再び后妃様に御心をお向けになられると、二度と他のものに御心をお向けになられる事はなかった。

 つまり皇太后様が、今上帝様をご誕生されてからというもの、上皇様を只々后妃様がお独り占めされておられるが現実だ。

 そして皇太后様は姪となられる、幼き皇后様にずっと言われ続けられた。


「よいか?皇后よ。我らが摂政の御身内である以上、主上の御心を望んではならぬ。摂政は主上の煩わしき目の上の瘤よ。決して愛おしんではくだされぬ。それが我が御子の今上帝であらば、私はその御心が解る。今迄苦しく切なき日々を過ごして参ったが、それは致し方ない事であったと、今ならば解るのだ」

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