第115話

「それは……貴方様に会いたく……」


「ふむふむ……」


「この様に触れたく……」


「ほうほう……」


「ゆえに寝所に、召しましてございます」


「……主上よ?それは如何な意味だ?」


「……言葉通りにございます」


 神楽の君様は、再び考え込まれてしまわれた。

 そんな風に隙をお与えになられている間に、衣をそれは手慣れた様子で剥がされてしまわれる。


「主上よ、それはならん。ぞ」


「はい。もう致しませぬ……」


「いや……それはもっとならん」


「お兄君様?」


「う〜ん?どちらが良いのであろうか?人道的には、他を思いながらは……しかしながら、夫婦の営みは実に大事なものであろうし……」


 物凄ーく考えあぐねておられる内に、あっさりと組み敷かれてしまわれた。


「暫しの間、私をご覧くださいませ。後ほどお話しを、お伺いいたしますゆえ」


「主上よ、その様になし崩しに、事を済まそうといたすは……」


 その先のお言葉は、甘く切ないお声と変わられ、神々しい程の白い肢体が隆起して、激しく恋しいお方を絡め取られ、囚われておしまいの主上様を狂わせられる。甘く荒くなられるお二人の息遣いに、満天の星々と恥ずかしげな月を、風に運ばれて来た雲が隠して暗闇をお作りした。




 後朝きぬぎぬの……気怠るげなお顔を、神楽の君様は間近でガン見される。


 ……なんと恋情とは我儘なものよ。相手が我が身であったならば、左の胸はチクチクと痛みはしないのだ……


 とお知りになられた。

 その代わりに訪れたキュンキュンと擽ぐる様なは、何だろうと思いあぐねられる。


「また参ります」


「そうか?待っておる……皇后とは仲良くいたすのだぞ」


「お兄君様?」


「神泉など覗いたり致さぬゆえ、夫婦は仲よういたすが肝要……私の代わりでも良いから、愛おしんで差し上げよ?」


 今上帝様は神楽の君様を、その大きなかいなに抱えられた。


「貴方様を内裏に、閉じ込めてもよろしゅうございますか?」


「それは……まだ先の話しといたそう……」


 神楽の君様は小さく微笑まれて、今上帝様を見上げられた。

 不思議な国の不思議なご兄弟の恋愛は、少〜しお進みなられたばかりだ。




 神楽の君様ご惑乱……終

 ……それでもまだつづきます……



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る