第114話

「私は……私はずっと、堪えておりますのに……貴方様にお会いしたいを、堪えておりますのに……如何して他の者と、共にお出でになられます?私とでは無く?」


「……琴晴は……」


 神楽の君様は、今上帝様を見つめられながら、言葉をお切りになられた。


「琴晴は……???」


 神楽の君様は、至極考え込まれてしまわれた。

 今上帝様はそれはそれはお辛そうに、神楽の君様をご覧になられて、そしてゆっくり静かにお顔をお近づけになられる。


「琴晴は好きだ、主上……」


 主上様は、酷く悲しげな表情をお浮かべになられ、震えるおよびで、お兄君様の顔容をお支えになられる。


を思うと実に楽しい。だがそなたを思うと何故であろう?ここがチクチクと痛むのだ。神泉に映し出された、そなたの気怠るげな表情は私を苦しめる……なんとも恋情とは難儀なものよ……」


 今上帝様は、お顔を指でお支えになられたままで、喰い入る様に神楽の君様を覗き込まれる。


「今一度……どうか今一度、お言葉をお聞かせくださいませ……」


「私はそなたに恋情を抱いておる……なんと難儀なものであろう?そなたが皇后とおるは実に腹立たしい。寝所に召すは許しがたい……後朝きぬぎぬの気怠るげな表情は見たくも無い……」


「お兄君様……」


 お二人はどちらともなく、お顔をお近づけになられた。

 ゆったりと重なり合う唇は、徐々に激しさを増していく……。


「主上よ……」


 神楽の君様は、恍惚とした潤んだ瞳をお向けになりながら、弟君様を見つめられた。


「……その様に、手慣れて参るは腹立たしい……」


「貴方様を思い、手慣れて参ったのでございます。哀れなる皇后に逃げを求めました。どうかお許しを……」


「皇后を相手としたは、致し方ないが……逃げとは如何なものか?」


 今上帝様はハタと、神楽の君様と視線を合わせられて、少し固まられた。

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