第112話
「手に入れてしまえば、手にしなかった日々より辛いものだろう?幾たび……幾たび主上様が私に言われたか……。お兄君様のお言葉通り女とおなり頂いて、内裏の主上様のお近くに后妃として置きたいと……毎夜かの方を傍らに抱いて眠りたい……と……。しかしその度に言われるのだ、主上様が恋してやまぬのは、真のかのお方。天が定めて誕生させたその全てなのだと……だから堪えておられて……おられて……」
晨羅は一拍間を置いて、銀悌に言った。
「哀れなる皇后様に、お逃げになられたのだ」
「?????」
「銀悌殿。幼き折より、共にお育ちなられたのだ。夫婦としてお育ちになられた。余りに幼過ぎて、その様な対象にならぬ程に身近で、そしてその哀れな境遇を、共有されておいでのお二方だ。恋心など持てぬとも、哀れなる妻としての情はお持ちになられておいでだ。ゆえにずっとずっと、神楽の君様に恋い焦がれ患われようとも、決して超えてはならぬ一線を引かれてこられた。決して堪えられぬ欲望の捌け口とはされずに、大事にお思いのお方を……神楽の君様の代わりに、お召しになられる今上帝様の御心中を、どうかお察し下さいませ」
「……何を?何を申されておられるのか?」
銀悌は晨羅の瞳から溢れ落ちる、その雫の様な淡い光の様なものを見つめて、微かに無理やりの笑みを浮かべた。
「……今上帝様は女体に、ご興味がお有りにならぬのだろう?」
「かのお方は、その様な次元のお方ではないのです。ただ思うお方しかご興味が無いのです。言い換えれば、思い人であらばどちらでも良いのです。ただ思ったお方がお兄君様だっただけの事……」
「……ならば?なぜ皇后様を?」
「初夜の儀の、
「躰が応えるのか?」
「幸か不幸か……」
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