第111話

「何を申すか?そう言うのであらば、昨今の今上帝様の、皇后様への御執心ぶりは如何なものか?陰陽寮が吉日と示す日以外でも、ご寝所にお召しであろう?」


「ご、ご夫婦になられたのだ、のどこが悪い?」


「お、おうよ!悪い事などないわ。と、やっとこさの事でなられたのだからな?……ならば如何して、禊ぎの後に此処に参られ、それは意味深い事をなされたのだ?は如何した事ぞ?」


「あれは……あれは今上帝様の、真実であられる……御心であられる」


「……ならば?皇后様は?」


 銀悌の目の色が、真紅の炎を内に浮かべた。


「……今上帝様は、余りに長くごねられ過ぎた」


 晨羅は、項垂れる様に言う。


「余りにごねられ過ぎた……それは、お側にお仕え致す私の手落ちだ……あれから、公卿、貴族……医師くすし、陰陽師、神祇じんぎの者、修法すほう……摂政関白を始め、大臣達が毎日の様に参内された。主上様の真意を計っての事だ。主上様はお兄君様しか、御心におありになられない。だが今上帝としての〝勤め〟は、になられねばならぬ……ならば皇后様だけに、そのお務めを果たされる事とされた。かつて御母君様が、お辛く苦しまれた皇后という立場を、同じ様な思いをさせぬとお決めになられ、御子様が授かれば、后妃様は持たれぬとされた」


「……さほどに、皇后様に御執心か?そこのどこに、〝御心は神楽の君様〟に在るのだ?」


「神楽の君様が、主上様の御心をお受けくだされたゆえに、皇后様に優しいお気持ちを持たれたのだ。そうでなければ、未だに頑なに拒否をし続けておいでであろう……」


「ふん。口では、何とでも言えよう?人間の汚い処よ」


「そうではない。主上様は真実かのお方だけだ。逢えぬ日々を辛く苦しく過ごされておいでで……」


 晨羅は微かに潤む瞳を、銀悌に向ける。

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