第109話

 さて、そんなもの凄ーくもの凄ーく恐怖となった謁見の翌日、琴晴は後院からの呼び出しに、藁をも掴む思いで馳せ参じて、女房に通された廂に平伏した。


「此度は、ご苦労でありました」


「あーいえ……あー」


 琴晴の心情とは裏腹に、それはそれは明るくお声を気さくにおかけくださる、御几帳みきちょう越しのお妃様に縋り付くような眼差しを向ける。


「……で?今上帝はちゃんと、そなたに労いの言葉をかけましたか?」


「はい……御目通りを頂き、お言葉を頂きました」


「さように申し付けましたが、ちゃんと致したのですね?流行病は終息したようであるし……罪なきもの達の調伏ちょうぶくも免れた由、全てそなたの手柄である。たかがそのくらい当然でございます」


 琴晴は、多少身を震わせて平伏す。


まことそなたは、役に立ってくれます」


 御几帳越しのお妃様は、そんな事お気にも留めずに朗らかに仰せくださるが、琴晴は涙が溢れそうになる。

 昨日はマジで怖かった。

 だがこのご様子であれば、どうやら琴晴は失敗ってはいないようだ。


「……このまま参れば、陰陽頭おんようのかみとなるもそう遠い事もなさそうですね」


「さ、さようにございましょうか?昨日の参内の折には、今上帝様御憤おいきどおり激しく……」


「まぁ?蒼が?如何してそのように?」


「……私が神楽の君様と薬草を採りに、神山に参りました旨をお伝え致し、その折に神楽の君様が、御心地悪くおなりになられましたのが、前の夜に飲みました酒が……」


「そなた、じゅと酒を飲むのか?」


「ああはい……よくお呼び頂き……」


「……で?今上帝は御憤りを?」


「はい……それと……」


「まだあるのか?」


 上皇様が呆れられる様に、追い撃ちをおかけになられる。


「はぁ……よ、酔い潰れてしまいまして……」


「夜を共になしたのか?」


 お妃様が、悲鳴の様な声を立てられる。


「はい……と申しましても、白という神使と共でございます……」


「ほんにそなたは、よい仕事を致してくれます」


「は?」


 琴晴は御几帳を揺らして笑われる、お妃様を呆然と見つめた。

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