第108話

「あー?そのもの達しか居ないので、銀悌殿と黄砂は屋敷にて待つよう、仰せつけられまして……」


「それで二人で参ったのか?」


「はい……その前の夜に、白と申す従者と酒を……」


「酒を飲んだのか?今上帝様の兄宮様の、神楽の君様と?」


 晨羅しんらが、呆れる様に声を張った。


「神楽の君様と、とでございます……」


 琴晴は少しずつ、ヤバい感を募らせていく。


「……まぁよい。それはよい!……で、お屋敷に泊まったのか?」


 晨羅の声が、鋭い物となって琴晴を捕える。


「はい……白と共に……」


 と言って、少〜し少〜しだけ嘘を言った。

 実はひさしで神楽の君様と酔い潰れてしまい、白が一緒であったか否か定かではなくて、翌朝早く神山に向けて出向く為、黄砂に起こされるまで全く気づかず。

 隣でそれは美しくお休みの神楽の君様を、それは優しく優しく起こす銀悌を認めたという有様で……と言う事は言わぬが身の為と、生まれ持った有り難い勘が教えてくれる。


「ゆえに、その馬共が走るのが早く、つまりその……二日酔いと馬の揺れで、心地悪しく御なりではないかと……」


 ここぞとばかり生意気な馬共を悪者とし、江戸の仇を長崎で……的な、ちょっと姑息な琴晴である。


「わかった、もうよい……」


 今上帝様はそれはご不快を、お隠しにならずに言い放たれた。


「はっ……」


 琴晴は身の置き場がない空気に身を縮めて平伏し、できうるならば身の隠し場所を探したい衝動に駆られた。

 マジヤバい感がいっぱいだ。

 これで本当に失敗っていないか否か、自信がなくなっている。

 暫くして面を上げると、今上帝様の姿は御簾の奥から消えておられた。


「陰陽博士殿……」


 晨羅が、申し訳無さ気に声をかけた。


「はい?」


「お命があるだけ、幸いにございますぞ」


「は?……」

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