第107話

 思考を巡らせて辿り着いた答えは、ただ正直にを付けずにお伝えする事だ。

 と処世術に長けた琴晴は決めた。

 どうせ隠してもを付けた処で、失敗っていれば明らかとされる。

 だったら真実のみを、伝えておいた方が身の為だ。


 晨羅しんらは暫し琴晴を凝視していたが、徐ろに御簾みすを上げて身を屈め、膝でにじり寄って今上帝様の側に侍った。

 そして神妙な表情を浮かべて小声で囁くと同時に


「なんと?」


 今上帝様はお声を発せられて、琴晴を睨め付けられた。

 その瞳は御簾越しで、琴晴には見えなくて幸いであったが、かなりの怒気をお浮かべになられておいでであられたから、もしも琴晴が知ったならば、その身を縮めて恐れをなした事だろう。


「……そなた、お兄君様と霊山に赴いたのか?」


「はい。神聖なる泉の周りに、群生致します薬草を教えて頂き、それを持ち帰り処方致した物で、流行病を終息致す事が適いましてございます……」


「……さようか?……」


「その折に神楽の君様は、御心地をあしられ……」


「なんと?お兄君様が?」


 今上帝様は身を起こして、御簾を持ち上げんばかりの勢いで立ち上がられた。

 それをお側に侍る晨羅に押し留められ、致し方なさそうに再び腰を落とされた。


「あっ?いえ、傍にございます四阿あずまやにてお休み頂きましたら、直に御心地快ここちよしとなさり、共に薬草を採って下されました」


「さようか……ならばよかった……」


 今上帝様はそう言われると、暫し沈黙をお作りになられて


「そなた、に……と申したか?」


「はい」


「二人だけで参ったのか?銀悌は?黄砂は?」


「はぁ……神楽の君様の元には、それは摩訶不思議な馬がおりまして……」


「馬とな?」


「はい。白馬と申すには小汚いものと、毛並みの良い栗毛の馬でございます。そのもの達が、それは流暢に言葉を発しまして……」

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