第101話

 銀悌は神楽の君様の額に置いた手で、優しく白く形の良い額を撫でやった。


「我が君様は、それは愛おしくお思いの弟君様を、皇后様に盗られてしまわれた、その様に寂しさを感じておいでなのでございます」


「……寂しいのか?」


「寂しいのではございません。弟君を盗られた様で、少〜し……」


「はっ!何をトロトロと言うておる」


 廂に仰向けに横たわられる神楽の君様の傍らで、膝を折って神楽の君様の額に手を置いて覗き込む、それは妖しげな二人の様子に呆れ顔の白が、白い鼻の線を浮かび上がらせて言った。


「嫉妬だ嫉妬!お前は弟が皇后に入れ揚げて、尚も翌日までその興奮の余韻を残しておる姿に嫉妬しておるのだ」


「白!」


 銀悌がそれは、きつい表情を浮かべて睨め付ける。

 そんな事は構い無しに、白は簀子の広縁に腰を置いた。


「さすがはらんのものよ。独占欲は人一倍だ。そのさがで、今上帝のその様子だけで見当がつくのよ」


「独占欲?独占欲なのか銀悌?これはなのか?」


 神楽の君様は身をもたげて、銀悌を直視される。


「……そうだ。は嫉妬だ嫉妬!お前は皇后に、今上帝を盗られたくないのさ。あれを独占していたいのさ……お前だけに惚けていて欲しいのさ」


「白!それ以上申せば、タダではおかん」


「何を銀悌?そなたの大事な大事な主人が、一丁前となったのではないか?弟だろうがどこぞの娘だろうが……そんな事は我らには構いなかろう?ただとなったのだ、恋情を得たのではないか?褒めて喜んでやるべきを、何を吼えておるのだ?」


「いい加減と致せ白……」


 銀悌の口から、鋭い牙が眉月に光照らされる。


「我らは恋を知り、相手を知ればそれで大人だ……そうであろう?」


「黙れ!」


 銀悌は真紅の瞳を、白に向けた。

 すると白は、嘲る様に笑みを浮かべて身を縮める。


「過保護よの銀悌……大事にし過ぎだ」

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