第100話

 ひさしでねっ転がって、何時もの様に満天の星を見ている神楽の君様だが、その物憂げな瞳に眉月が赤くなって行く。


「我が君様、神泉に薬草を採りに参られてお戻りより、お心地があしうございますか?」


 幼少の砌よりの教育係世話係の銀悌が、心配顔でお側に侍って聞いた。


「神泉でご気分がお悪かったとか?琴晴殿が心配しておりました」


「銀悌よ……」


 神楽の君様は仰向けにおなりのままで、益々赤くなる眉月を瞳に映されながら言われた。


「はい……」


「如何致した事であろう?神泉に映し出された主上を見た時より、我が左胸が痛いのだ……」


 ぎゅっと左胸を握られて言われる。


「……それは……如何して?」


 銀悌は今までにお見せになられた事がない、神楽の君様のお姿に身を近づけて声を出す。


「……主上は気怠げに碁を打っておられた……」


「碁?でございますか?」


「うん。黒の碁石をそれは物憂げにお持ちになられ、見た事もないような、気怠げな表情を浮かべておられた……もしや、またどこぞご不調なのではあるまいか?琴晴に聞いた……」


「琴晴殿は何と?主上様のお身体は、大事ないのでございますか?」


「いたく健在らしい。皇后をよく寝所に招いておるそうな……」


「それは……何よりでございます」


「うん。昨夜も召されて、気怠さが残られたのであろう……」


 銀悌はそっと神楽の君様の額に手を置いた。


「それがお寂しいので、ございますか?」


「うん、銀悌……。如何してであろう?ここがとても痛い……あの様な表情を、私は見た事もなかった……男と女のは、主上をあの様にして見せるものであるのか?さほどのものであるのか?」


「我が君様……。ご夫婦でございますゆえ……」


「夫婦とはであるのか?」


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