第93話

 翌朝、牛車に揺られて行くのかと思いきや、なんと神楽の君様のお屋敷には馬がいる。

 それもなんとも艶やかな四肢の見事な馬で、そして言葉を話す。

 さすがに二足歩行では無いので、ちょっと琴晴はホッとしたりもする。


「なんだ陰陽師か?」


「陰陽師?」


 栗毛色のピカピカの毛並みの方が、琴晴を好奇の目でガン見して来る。


「すまねーなぁ、こいつ陰陽師を見るのは初めてでさぁ……」


 白馬と言うにはちょっと小汚い白毛の方が鼻で笑う様に言った。


「陰陽師って、凄く変な術を使うんだろ?式神とかいうもん使って、精霊擬きを操るとか?」


「はは……擬きは擬きだ……偽物しか操れねーかんな……真の神や神使には敵わない」


「だよね?だよねー高々の人間だよねー」


 栗毛色に顔をこすり付けられる程にされて、もはや嘲られてる感いっぱいだ。

 に嘲られては、さすがの琴晴も虚しさを覚える。


「……その方等、琴晴殿を揶揄うはいい加減にいたせ」


 狐族の神使で、先は眷属神の銀孤が叱責してくれる。


「はん!先は眷属神かもしれんが、我らとてそこそこのものだぞ」


 白馬が鼻を鳴らして言い捨てる。


「それは重々存じておる。神楽の君様を背にお乗せできるは、そなたしかおらん」


「当然だ。大神様がご降臨されし折の為の俺様だ。しかしながら大神様はその役を、瑞獣ずいじゅうらんに任せられた、ゆえに仕方なくその御子を乗せてやっておるのだ」


 白馬は恩着せがましく宣う。


「それも重々承知である。ゆえにじゅ様は、そなた達を大事に致しておろう?此処の敷地は全てそなた達の自由の為であろう?厩とて広かろう?」


「ふん。では不十分であるが、大神様より直々にアヤツを任せられたからなぁ……」


「さよう、若き君様であられるゆえ、宜しく頼む」


「はっ?そなたに言われてもな……」


 二頭の馬は、銀孤を一瞥して鼻を鳴らした。

 何とも不思議なもの達との付き合いとは、なかなか気の休まらないものだと、琴晴は内心銀孤を気の毒に思った。

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