第92話

「なんだ?流行り病か?そんなもん、神泉の周りに生える薬草が効くんじゃないか?」


 一緒に飲んでいた白が、琴晴が持参した鴨肉を頬張りながら言った。


「おっ!」


 脇息きょうそくに片肘を付いて、眠たげであられた神楽の君様が身を起こされた。


「確かに……妙案であるな?如何いたす琴晴?」


「如何いたす……と申されましても……」


 見惚れていた琴晴は、酒の勢いもあって赤面したまま困惑する。


の薬草は神気が高いからなぁ……まっ、余程のものでなくば効き目はあろう?第一、我ら神使とて役立っておる物だぞ?高々の人間に効かぬはずは無い……そうであろうじゅ?」


 白はそれは馴れ馴れしく、神楽の君様に横柄な態度を取る。

 神使とのたまっているが、鼻に白い線が入っている白鼻芯にしか見えない。一応バランスは悪いながらに二足歩行をしているし、今は寝そべってはいるが片肘を付いて頭を支えて、横柄にもそのまま鴨肉を頬張っている。

 いろいろと不思議なものとは縁がある琴晴ではあるが、さすがに白は珍しいものの一つだ。そういえば、どう見たって人間にしか見えない、神楽の君様の従者の銀孤も先は眷属神らしいし、この間まで今上帝様の牛飼童うしかいのわらわで、今は神使見習いとかいう人間も居るのだから、かなりバランスが悪い体制の白鼻芯が一匹増えたとしても、そう大した事では無い様に思える。


「そうだな……琴晴、明日にでも参ってみるとするか?」


「……何処へでございます?」


「はっ……神泉だ神泉……」


「神泉?」


 聞いた事も無い、と言わんばかりの表情を向ける。


「神山の奥に存在あるのだ。高々の人間は行けぬが、私が行くならば行けん事も無い」


「さようにございますか?……ならば、よしなにお願い致します」


 琴晴が神妙に頭を下げるので、神楽の君様は和かに微笑まれた。

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