第89話

 ……若いがゆえの睦み合いが如何なものであるか……

 それゆえその艶が御身に残されておいでである事は、若き主上様より男女のをご存知の関白様はご存知だ。

 だが、あれ程グダグダとされておいでの今上帝様が、いざ一線をお超えになられると、その若さゆえかそれはお若き皇后様の女体に、溺れられておいでになられる。

 これは我が父摂政にとっては、願っても無い成り行きで、この様子で行けば想像以上に早く、孫の顔が見れると日々ご満悦であるから、今までイライラと不機嫌であった為に、一族の者達は息をするのも気を使っていた程であったから、最近の穏やかに暮らせる毎日はとても有り難い。


「うん……。皇后とは睦まじゅうせねば……であろう?おじ君様?」


 今上帝様は、再びパチリと黒の碁石を置くと、母君様であられる皇太后様の甥に当たられる、関白様をつぶらな瞳で見つめられて言われた。


「はは……さようにございますな……」


「私は皇后が子を成せば、他の后妃を持つ気はございません」


「さ、さようでございますか?」


「……まさかおじ君様も、入内させるおつもりでございましたか?」


「ま、まさか?」


「……ならば摂政に、その旨をお伝えくださいませ。子を成せば皇后と仲睦まじく致して参りますゆえ、そうご心配りを下さいませぬよう……」


 パチリと再び黒の碁石を置かれる。

 関白様はジッと、その碁盤を見入られて黙された。


 関白様はお父君様が摂政様であられるから、わざわざ数少ない我が娘を入内させるなどと大それた思いは毛頭ないが、古より帝は何人かの后妃をお持ちであられた。

 記録に残されておられる中には、上皇様となられてからも数えて、二十数名と記されておられるお方もおいでで、それは記されている女御様の事であって、捨て置かれた女房や女官もいるはずだ。

 確か上皇様の前の前……御祖父様に当たられる帝も二十人近かったはずだ。

 そのお方は上皇様になられずにご逝去なされたが、上皇様や今上帝様からは想像がつかない旺盛なお方だった。

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