神楽の君様ご惑乱

第88話

 さてさてここ中津國なかつくには、魑魅魍魎ちみもうりょうも物の怪もあやかしも、鬼に精霊に霊に……。名を挙げ連られぬ程に、いろいろなもの達が存在する、の地と現世との狭間の国で、八百万の神々様が座し、天が必要に応じて誕生させられる大神様も座され、眷属神や神使に瑞獣まで存在する、それは畏くも尊い国であるばかりか、太平の世が続き人々は安心と安泰の日々を送る、そんな有り難くも稀有なる国の主上様は、まだお若くてつい最近、幼い頃からの妻であられた皇后様と、名実ともにのご夫婦となられたばかりだ。


 主上様はお母君様であられる皇太后様の、お兄君様に当たられる摂政様のご嫡男であられる、関白様の参内を朝から受けられている。

 ついこの間迄は病弱気味の少年で、何かしらの理由を見つけては、幼い頃からの妻との夫婦の絆を深め様とされずに、ひたすら逃げる事ばかりをされておいでであったのに、どうした事だろう?

 あの幼過ぎる頃からのご夫婦の為、ずっと滞っていた初夜の儀をこなされてからというもの、逞しく艶やかな男の色香を漂わせる青年となられた。

 そして今朝も、単衣に御大袿おんおおうちぎを重ね着て、気怠げに繧繝縁うんげんべりの畳に座られて黒の碁石を置かれるお姿は、今女房女官達が熱を上げている草子に出て来る、帝を彷彿とさせるお姿であられる。

 宮中の数多の女房女官達が、恋い焦がれるは理解ができる程だが、散々儀式迄はごね続けておいでであったにも関わらず、皇后様と真のご夫婦となられてからというもの、主上様は陰陽寮からのご夫婦にとっての吉日と示される日以外でも、物忌ものいみの日でない限りは、皇后様をご寝所に召される事があられるから、摂政様はそれは大喜びをされておいでだ。

 直ぐに待望の親王様がご誕生となられるだろう。


「昨夜も皇后様を、お召しになられましたとか?」


「おじ君様……夫婦は仲睦まじゅうせねばなりますまい?さようにございましょう?」


 主上様は昨夜の名残りを体内から匂い立たせ、それは気怠げに言われた。

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