第80話

「……それは足掻いても、如何様ともならぬのか?」


「摂政が生きている内は……」


 お妃様が頷かれと、皇太后様は視線を天に泳がされた。


「今上帝は繋ぎか……」


 大きくため息をお吐きになられるお姿を、お妃様はジッと見つめられる


「……しかしながら、青龍とは気ままな龍で、気に入りの者には抱かれますが、ずっと居るとは限らないのです」


 皇太后様は天に向けられた瞳を、再びお妃様に向けられる。


「摂政は気に入りゆえ如何様ともなりませぬが、摂政が死ねば龍は天に昇ります。しかし気に入りの〝質〟と申すものがございますゆえ、摂政の血筋に再び抱かれる事が多いのです。……ゆえに私は今上帝に、皇后との御子を、願うておるのでございます」


「…………」


「お二人には摂政の血が流れております、その御子にはお二人分の血が受け継がれます……さすれば、青龍の好むを持つ者が誕生する機会はございます」


「……なるほど、ゆえにこの御子が帝となるのか……父の今上帝を追いやって?」


「……摂政ならばそう致しましょう」


「さようか……摂政が御子の後見うしろみとなりて、今上帝を追うのか……」


 それは遠い目をされて言われた。


「……確かに追いやりましょうが……今上帝が上皇様の様に望むならば、それもよろしゅうございましょう?」


「ふっ、確かに……。上皇様はそなたの色香に惑わされ、全てをお捨てになられた」


「……それが上皇様のご意思ならば、それはよろしいかと?」


「……はっ、そなたは全く……」


 皇太后様は力無く言い放たれる。


「……ですが、もしも今上帝がそれを望まぬ場合、朱がお役に立ちましょう」


 そのお言葉に皇太后様は、お妃様のご真意を測りかねられて睨め付けられる。


「青龍は最も強大なる力を保持し、権力を貪るものでございます。その青龍を抱きし者が天下人となりますれば、国土は広がり豊かな国となります。が、下手をすれば覇王となりかねませぬ。その強大な力を抑える力はただ一つ、鳳凰の炎の如く焼き尽くす力でございます」

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