第81話

「何を……青龍は水を表し鳳凰は火……青龍の力の方が強かろう?」


「……それは高々の火の事……鳳凰の炎は決して消える事はございません。仮令焔となりても、この力は消えずに機を得て再び燃え盛り、青龍の力を呑み込む事ができるのです……そして我が一族は、その鳳凰から誕生いたし鸞でございます。いずれ万が一、今上帝がお望みとあらば、青龍を封じ込めるお力となりましょう」


「???なぜその様な?」


 皇太后様は永年、いとい続けて来られたお妃様を注視されて問われた。


「一つに今上帝が上皇様に最も似た、御子だからでございます。第二に私は皇太后様に借りがございます」


「借りとな?」


「私が遣わさらねば、貴女様は上皇様と、お幸せでありましたでしょうに?」


「はっ、何を申すかと思えば……」


 皇太后様は、呆れられる様に笑われる。


「そなたが来る前は、確かに私にもお召しはあったが、上皇様は摘み食いをなされておいでであった。摂政が兄である以上、上皇様の御心など頂けようはずもない。そなたが来ねば上皇様とて、容易く兄に摂政の地位などお与えになられてはおらぬ。どの道兄を牽制され、疎んじられておりましょう……」


「……それでも、私には借りでございます。ご存知の通り、私は愛情に貪欲なのです。誰一人として分かち合うは堪えられませぬ。ゆえに上皇様を独占してまいります。その償いとして、皇太后様と今上帝をお守りいたします」


「ふっ……そなたがその様に、思っておったとは……。上皇様の女御達とその御子達が、摂政を始め高い地位の者達と縁づきそれなりの官位を得ているは、そなたが我ら人間を見下して哀れんだものと思うておった……」


「何を?私ほどの独占欲ともなりますれば、上皇様のお胤は全て愛しいのでございます。すらも独占いたしたいのでございます」


 お妃様が笑われると、皇太后様も呆れて笑われた。


「ゆえに今上帝は私にとっても宝。が望む事は、朱が全身全霊をかけて叶えましょう……無論、私とて手助けはいたします……ただ、将来は青龍を抱きし者に国を司らせる、それが約でございます」


「私は今上帝が望むならばそれでよい……今上帝の望む政のみが、私の望みなのです」


 皇太后様は神妙に、お妃様を見つめられて言われた。

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