第75話

「私はずっと、この日を夢見ておったのでございます」


「…………」


「私には指南役がございますゆえ、お兄君様よりも耳年増でございます。いろいろと、いろいろと……」


 そう言われると、それは美しい乳房に御手を付けられる。


「この様に、たわわな乳房でなかろうとよろしいのに……」


 静かに揉みほぐされながら言われる。


「私はあなた様がいいのです」


「……しかしながらそなたは、私を女の精と致して思っておったではないか」


「あれは、あの様なお姿もまた一興と……」


 今上帝様はそうお口にされると、ゆっくりと神楽の君様のお顔にお顔をお近づけになられる。


「あなた様のまなこは、濃色こきいろよりも深い紫でございます……真に魅入られて囚われてしまう……私は一目で囚われの身となり身動みじろく事が致せぬのでございます。幼き皇后に逃げを見つけるなど、できようはずもございません。では、そこら辺の女房に逃げなど致さば、あなた様への不敬となりましょう……先程も申し上げました如く、直ぐにあなた様を求めましょう。ならば逃げる事など考えてはならぬのでございます……」


「主上よ。私は瑞獣の血を持つものであるゆえ、そんなに深く考えずとも……」


「何を……申されます?瑞獣のお妃様を、お母君様にお持ちのお方が……」


「いや、お母君様は、我が一族の中でも異常なのだ……」


 神楽の君様が半身を起こそうとされるが、今上帝様のお力のお強さに、身を起こされる事がおできになられない。

 そうこうもがいておいでの内に、静かに近づいた今上帝様の唇が、神楽の君様の唇を捕らえてしまわれたので、少しずつ躰の力をお抜きになられていかれた。


「手解きをなされてくださいませ……巫女様……」


 もつれ合うお二人のご様子を、控えの間に座す、見届け役の女官が真顔で聞いていた。

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