第74話

 神楽の君様は今上帝様の胸の中で、トクトクと早鐘のように鳴り響く、左胸に耳を傾けられている。

 そしてどうにかして、ご自分の左胸を重ね様と試みられるが、なかなか身動きがおとりになれない。


 ……これは困ったぞ……


 とお思いになられた神楽の君様は、きつく抱きかかえられる今上帝様のお背中に手を回され、ポンポンと軽く叩かれた。すると今上帝様はかいなの力を抜かれて、神楽の君様のお顔を覗かれた。


「今宵私は、そなたに手解きをする者なのだ」


「はい……」


「ならば、大人しゅうされるがままにされよ」


「……はい……しかしながらお兄君様は、さほどに手慣れたお方なのでございますか?」


「て、手慣れてなぞおらぬが、色々と草紙だのその類の物をだな読み漁ったからな、かなり手慣れたものとなっておる」


「お兄君様はの手解きでございますか?」


 今上帝様はそれは嬉しそうに、間近くで愛しいお方を覗かれて微笑まれる。


「ふん。小馬鹿にいたした物言いよ」


 神楽の君様は真顔を作られて、今上帝様を御帳台に押し倒された。


「これから手解きをいたすゆえ、大人しく言う事をきかれよ」


 神楽の君様は馬乗りになられて、それは妖艶に再び白く細いおよびを今上帝様の、露わとなられた上半身に這わされ、ご自身の左乳房を今上帝の左胸へと押しやって、右腕を回して今上帝様の左の背中に手を置いた。

 丁度神楽の君様の乳房と掌で、今上帝様の心臓を挟む形を作られて、妖しげに耳元に桃花の如き唇をお付けになられて、いざ呪文を唱え様となされた刹那、クルンと今上帝様が身を動かされて、上に重なられていた神楽の君様が、下になられて今上帝様に覆い被さられてしまわれた。


「えっ?」


 神楽の君様は、上気を放って覗き見られる今上帝様を、仰ぎ見られる形となられた。

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