第72話

「私はかのお方様をお慕い申しておるのだ。どんなに似ておろうとそなたではない。……いくら受け入れて頂く事が叶わぬからと、瓜ふたつのそなたに逃げて何といたそう……今はそれで気持ちが癒されようが、直ぐに悔いる事となる……私はかのお方様のほかを深く思えぬのだ、そなたを得ても追い求めてしまおう……ならばそうなった折に、如何してかのお方様にお会いできる?思いが通じぬかのお方様の代わりを得た私に、お慕い続ける事など許され様はずもない……」


「お兄君様とは、御子様を儲ける事は叶いませぬ」


「……何をそなた?」


「ならばお諦めなさいませ。主上様は親王様を儲けるが役目にございます」


「その様な事百も存じておる……存じておるが……」


「主上様。ならばお役目を、お果たしなさいませ。それが定めでございます」


「それでも私は、お兄君様を恋うておるのだ。恋い焦がれておるのだ。そなたではない!」


「はー!グダグタと幼稚な事を申される。私と一夜を伴にいたし、綺麗さっぱりと諦めなされませ」


「そなた巫女の分際で……」


 主上様はカッとお怒りになられて、巫女神楽の君様を捩伏せられた。


「そなた如きが物申すでない」


 睨め付けられて顎を押しやり、それはそれは巫女神楽の君様を、食い入る様に見つめられる。


「そなたは真によう似ておる……」


 さもお辛そうに言われる。


「似ておりますれば、一夜のお相手によろしゅうございましょう?」


「……だが違う……お兄君様は巫女ではない。女ではない……」


 苦渋の表情をお浮かべになられ、強く巫女の肩を握るお力をお緩めになられた。

 そして御身をお引きになられて、横たわる巫女を凝視された。

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