第六巻

第69話

 神楽の君様は女官に伴われて、入り組んだ廊と渡殿を歩いて、今上帝様のご寝所にあたる清涼殿の、夜御殿よるのおとどに促された。

 清涼殿には、后妃様が参上する時の控えの間があるが、今上帝様に后妃様が存在しないので使われていない。

 巫女装束に身を包み、濃色こきいろの袴をお召しの神楽の君様だが、朱を好まれるお方らしかぬお色だが、濃色は未婚の意味を持つから建前的に〝処女の巫女〟だから仕方ないのか……。

 枢戸くるるどを開けて中に通されると、女官は頭を垂れてそのまま後退りし、ご寝所に近い高貴なお方がご使用になられる控えの間の一室に座した。

 神楽の君様はその様子を尻目に、そのまま御帳台へと歩を進められる。


 古より続いているこの儀式は、巫女役は大概母方の身内から選出される。

 手慣れた女性ものが選ばれる……とかいうが、大体美貌に長けた女性ものが選ばれる。

 美人には数多の男性貴族が通うから、そりゃぁ経験豊かになるという道理だ。

 それに、親心で息子のお初は、それなりの女性ものを当てがいたいのは当然だ。

 つまり、かなり高貴な美女が、お相手を勤めるという事になる。

 第一この〝手解き〟なるもので、御子様を授かる事も珍しくはないから、とにかく我が娘にに授かりたい摂政様にとって、どこの馬の骨ともつかない、身分の低い巫女の方が好都合だ。

 これだけグダグタとしておいでの今上帝様であられるから、口にはものの、大概の者達は女体にご興味をお持ちになられない体質たちであられるかもしれぬ、と疑い始めているから、どんな状態であろうとお胤を授けられればラッキーと目論んでいるし、その機会はそう多くはないのでないかと疑心暗鬼となっている。それは特に野望を持たれる摂政様だが……。

 だから、下手に皇太后様の身内=自分の身内であろうとも、他の者にその機会を与えたくはない。

 つまり自分の娘以外、仮令親戚縁者であっても、主上様の御子様を産まれては困るのだ。


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