第66話

 とある吉日を陰陽寮が占いその結果を、皇家の機密文書から衣食住まで担う蔵人所くろうどどころと、首を長〜くして待ち侘びておいでの摂政様に申し上げる。

 すると今上帝様は、直ぐに体に支障を訴えられる。

 だがここまで来てしまえば、余程のことが無い限り進めていかねばならないし、余程のことがあったとしても、お妃様のご様子では進む

 まさか閻魔様に、お助け頂く事はないだろうが……。


 主上様は今朝から、動悸息切れの体調の不良を訴えられる。

 急ぎ医師くすしが呼ばれるが、案の定と言うべきか原因が解らない。

 原因が解らないが、摂政様からかお妃様からかが回っているものか、今回の蔵人所は意外と強行に進めるつもりの様だ。

 今上帝様の秘書というべき内侍司ないしのつかさ典侍ないしのすけ様が、皇太后様に逆らえず、今上帝様の体調不良を殊の外大袈裟にしてお甘やかしであったが、どうやらその効力が効かないご様子だ。

 そんな状況を鑑みる琴晴だが、摂政様のお力かお妃様のお力か?どちらのお力が動いているのか解らない。

 解らないが、進んでいる方向は見えている。

 お望みでなかろうと、どんなに体で訴えられようとも、今上帝様は帝としての勤めを果たさられねばならないのだ。

 今回初めて琴晴は悟った事がある。

 今迄帝様とか上皇様は、数多の美女才女をはべらせておいでであられたから、なんとお幸せな方々よ、と羨望の目で見ていたものだが、今上帝様の様にその様なお気持ちとなられないお方には、なんと酷なお立場だろう。

 欲深い貴族達は我先にと、姫君様方を今上帝様に差し出し御子を授かりたい。

 トップの座は摂政様で、この先は今以上の栄華を望まれておいでだから、敵対する相手などいないが、今上帝様に姫君が寵愛され親王様をご誕生なされば、より一層の一族繁栄は間違いないから、望まないのに美女が入内してくる。

 なんともお気の毒な今上帝様であろう。

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