第63話

 詰まるところ……琴晴の覚悟は確信へと変わった。


 ……そうだ、そう言う事だ。俺は間違ってはいない。ただ身を委ねて片棒を担ぐのだ。否、片棒をのだ。それが俺に課せられた役なのだ……


 この時琴晴は覚悟を決めた。

 それこそお妃様に談判して頂こう……俺が閻魔の所に行ったとしたら……

 琴晴は役を知りやるべき事を知ったので、只遂行するべきと覚悟を決めた。

 処世術は知っている。

 身分の低い母を持ち、父から顧みられる事がなく育った身の上だ。

 如何様に世を渡って行くか、誰につくべきか。

 先見の明は持っている。


 琴晴は神楽の君様のお屋敷に赴いた。

 美しい神楽の君様は、今日も朱色の狩衣をお召しで目を惹く。

 だがもはや琴晴は、その美しさには見惚れる事もなく、簀子の広縁に座して頭を垂れた。


「神力ある女神使は、如何でございます?」


「いや……それがなかなか……」


 神楽の君様はそう言いかけて、首を傾げられる。


「何か感じが変わったな?」


「さようにございますか?……ああ、主上様の初夜の儀の件で、せわしく致しておるからにございましょう」


「???主上はと相成ったのか?」


「はい。吉日を占いまして……」


「……さようか?まだ先の事と言うておったに……」


「摂政様が焦れておいでてございますので……」


「はっ?摂政と主上の身体とどっちが大事だ?」


 神楽の君様は、かなり不快なご表情を作られる。


「親王様を頂くが大事にございます」


「それは摂政の為か?」


「主上様の御為にございます」


 琴晴が仰々しく頭を垂れる。

 それをより一層の不快感をお隠しにならずに、神楽の君様は一瞥される。


「そこで神楽の君様」


「なんだ?」


「良い女神使が見付からぬのでございましたら、こちらで巫女を見繕ってもよろしゅうございますか?」


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