第60話

「とにかく主上にとって大事なのは、皇后との初夜の儀……もっと大事なのは、摂政の血を継ぐ御子を頂く事だ」


「はい。それで我ら陰陽寮は思い煩うております」


「媚薬を飲ませるもあるが、そんなもん長くは続かん。ずっと惚れさせておくは無理難題よ。我らが知り得る媚術も同様だ。思っておらん者を、ずっと思わすのは無理だ。ご法度だけどな……。ところがこの媚術は、惚れさせ続けられるんだよ」


 ……いやだから、媚薬も惚れ薬とも言うが……


「自然と恋い焦がれるみたいに……手取り早く言えば、私に抱える思いを皇后にすり替えられるのだ」


「はっ?」


「……だから、私に対するが深ければ深い程、皇后を思う思いが深くなる……ずっと思い続けるが可能なのだ」


を変える術なので?」


「……たぶん」


「たぶん?」


「試した事が無いのだ……法度だらな。我らの媚術すら試した事は無いのだ、解るわけがない」


 もう一人真顔の銀悌が言う。


「……そっちも解らんのに、こっちが解ろうはずもない」


 大真面目に言われる。

 大真面目なのだ。

 ただ、一目見た時から〝春画〟疑惑を持った琴晴以外は……。

 一応…らしきものをご大層に書き連ねているが、挿絵はどう見たってだ。

 男女の。いろいろとあるの形を披露している

 ……………………。

 どう考えたってな成り行きだ。

 陰陽師じゃなくたって、ちょっと切れ者だったら誰だって解る。

 この事に気がつかないのは、たぶんこの二人だけだ。

 そして琴晴は、自分がどうして此処に居るのかを考える。

 こんな簡単な事だ、理由があるに決まっている。

 そして、この陳腐な計画の片棒を担がされるのが、自分の役目であると察しがついた。


 ……あの眩暈も耳鳴りも……


〝陳腐〟と思い当たる琴晴だから警告を受けている。


 ……そうだ俺の役目は片棒を担ぐそれだけだ……


 琴晴は眼前に置かれた酒を、瓶子へいしから盃に注ぎ込みながら、大いに真剣に計画を企てる二人を見つめながら腹をくくった。


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