第五巻

第59話


 さてさて……実に純朴無垢な神楽の君様であられる。

 琴晴はとにかく感嘆したりの、神楽の君様のお姿を見つめる。

 今時の姫君様とて、より高貴な官位の夫を得て、絶対逃さずに正妻の座につこうと、それは恋愛する以前から、母や乳母から手解きを受けているから、この手の絵を知っている姫は多い。

 男は移り気だから、どんどん上玉へと乗り換えかねない。だから自分に縛り付け逃れられなくして、確固たる正妻の地位に居座り続ける為の努力は涙ぐましい。男をとろけさせるを知っている。

 ならば男公達おとこきんだちならば当然の事、お年頃になればいろいろと教えてくれる者は多い。

 いくら世俗とかけ離れてお暮らしとはいえ……瑞獣の血をひくとはいえ……お美し過ぎるとはいえ……。

 こんな……媚術だかなんだか知らないが、高々の陰陽師すらも胡散臭うさんくさいと気づく様なものを、まるで疑う事をなさらずに信じきられる無垢な神楽の君様に、琴晴はもはや呆れ果てるを通り越して、驚嘆を持ってそのうぶさに感服している。余りの世間知らずに初々過ぎて、愛らしさが増して、失敗りを犯してしまいそうだ。


「……では、それなりの巫女を探させます」


「術を掛け得るものはおるか?」


「女神使を探さねばなりませぬな……」


 二人の深刻な様子に、首尾よく事が至ったら銀悌にしかと教えてやらねば……と琴晴は思う程だが、今はを教授してやるわけにはいかない……そんな気がする。


「……して、主上様に初夜の儀を終えて頂くので?」


「ああ……一石二鳥だろ?」


「はっ?」


 琴晴は再び神楽の君様が、〝媚術〟について自分とは違う解釈をしている事に気がついた。


「媚術とは……」


 ……つまりの時に、に、にさせるですよね?……



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