第58話

 神楽の君様は行為に無関心のお方だから、春画自体をご存知ない様だ。ただ純真に媚術というものが存在して、こういう風にするものだと思い込まれておいでだ。

 では、お側にお仕えの銀悌は?

 神使だから、人間のは解らないのか?

 いや……神も人間の女を孕ませているし、眷属にも神となり得るものがいると言っていたから……孕ませる事は可能だろう……だが?知っていれば……


「これは春画だと思う」


 と言うはずだ。……と言うことは、こんな呪術が存在するというのか?


 否定をしようとした琴晴は眩暈を起こして、考えがまとまらなくなってしまった。


「しかし、如何様にしてこう持って行くか?」


 純真無垢な神楽の君様は、至極大真面目に考え込まれている。


「此処へ呼んで衣を剥ぐか?」


「畏れ多くも主上様を……でございますか」


 これ又銀悌が大真面目に答えている。


「あ……いや、神楽の君様……」


 ちょっとフラつきを覚え、微かに耳鳴りなども覚えながら琴晴は言った。


「初夜の儀の前には、主上様皇后様には、して頂かねばならぬ事がございます」


 言葉を言い終えた瞬間、琴晴は眩暈からも耳鳴りからも解放された。


「皇后様は入浴潔斎にゅうよくけっさいの際に巫女に隅々まで洗い清められ、同様に主上様も巫女に洗い清められ禊ぎをいたすのですが……」


 琴晴が滔々と述べていると、神楽の君様と銀悌が興味津々に聞き入っている。


「主上様にはそれ以前に、禊ぎをして頂かねばなりません」


「…………」


「つまり表向きは処女の巫女と言われておりますが、巫女に手解きを……」


 神楽の君様と銀悌は、大きく身を乗り出されて納得される。


「その巫女ならば術をかけられるな」


「身体全体で艶めかしい術を施す……なかなか理にかなった方式である」


 神楽の君様が大いに感嘆し、銀悌が同調する。

 琴晴は不思議と自分の意とはそぐわない、二人の反応にただただ呆れるばかりだが、如何様にもならないを感じて、成り行きに任せるしかないと判断を下した。

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