第57話
確かに一途なご性分の上皇様だが、東宮様の頃には東宮妃様以外に、摘み食いをなされた事もおありだ。
だが今上帝様は、兎にも角にもお兄君様の神楽の君様以外は、受け付けるお気持ちがお有りになられない。体調を崩され拒否をされ続けるおつもりだ。
これは本当に困惑しきりだ。
多少なりと女房に関心でもお持ち頂ければ、他所に気持ちをお向けする希望もあるが、体で拒絶を現されるのだから、如何様にもできない。
「……でだ、陰陽師」
琴晴が酔えもせずに思い倦ねていると、銀悌がお側に寄って手渡した巻物を、お手にされた神楽の君様が、ぽんぽんと片手で叩く様にされて言われた。
「この
ぽんと琴晴に軽く投げて寄越された。
「巻子本にございますか?」
「実に面白いぞ」
神楽の君様はもはや艶やかなご様子はなく、冷めたお顔をお向けになられ、少しながらほくそ笑みを浮かべられておいでだ。
「はっ?これは?」
「媚術だ」
「媚術?」
「我らも……らしきものは施せるが、こう言ったものはご法度だ。此処まで効き目のありそうな物は聞いた事もない」
「我らも存じません……
琴晴は食い入る様に見入る。
「しかしながら……」
琴晴はかなり露骨な描写の挿絵に、眉間を寄せる。
「かなりギリの処までいかねば効き目が薄い」
「ギリ……」
どう見たって春画の類いだ、一糸纏わぬ者同士が絡み合っている。
ただ片方の者の目が赤く光って、相手に挑みかかっているので、呪術を掛けているのか?
「いや……これは……」
琴晴が首を傾げて言いかける。
「うーん。肌を合わせる事で、全身から術が効いていくのか……」
神楽の君様は、至極真顔をお作りになられて唸られる。
「いや、神楽の君様……」
琴晴は言いかけて、先程と同様に脳裏に光の柱が浮かび上がって眩暈を起こした。
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