第53話

「おっ?お母君様が上皇様の元に赴かれた時に、ご神託なされたろう?意外と気軽にご神託なされるが、言っている事がまどろっこしいだろう?は、人間には不可欠だが神には言葉が要らんからな、なかなか馴染まれんのだ。我ら大神に仕えるもの達の悩みでもある」


 そう言われると少し頰を赤らめて、琴晴を正視された。


「そなた達の流行りの〝歌〟とやらは、なかなか厄介な代物だ」


「えっ?神楽の君様に、歌を詠む者がございますので?」


 琴晴が目を丸くして直視した瞬間琴晴の脳裏で、先程の森林の光の柱が輝きを増した。


「あー!」


 一瞬眩暈を起こした琴晴は、神楽の君様を直視したまま声を上げた。


「あの妖の精は、神楽の君様で?」


「ふふん?やっとの事で解ったか?」


 神楽の君様は桃色に染められた頰を、お隠しになられる事も無く言われる。


「しかしながら、如何致して妖の精に?……否、妖の精では無いのか???」


 合点がいかず琴晴は、盃の酒を飲み干して考える。


「あれは主上が思い描いた私だ……」


「……さようでございますれば……」


 琴晴は神妙に思い倦ねる様子を作りながら、ヒクヒクと頰と鼻頭をヒクつかせた。


「……よいよい。その様に繕わんでも……」


 神楽の君様は、それは物凄ーく投げやりに言われる。そのご様子がまたまた愛らしくて、琴晴は笑いを我慢するのに再びヒクつかせた。


「つまり、私が難儀致しておる、恋文とやらを送ってまいるのが、あろう事か主上であられるのだ」


 さも〝どうだ〟と言わんばかりの表情をお作りになられるから、琴晴は笑いを我慢できずに吹き出してしまった。


「お、お許しを……」


 笑いが止まらずにいる琴晴を蔑視しながら、神楽の君様は盃を口元に運ばれる。


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