第52話

 これすらも、多少を極めた者でなければ、知りえない事だ。

 そしてこの大神には、対の大神がおられるが、現在いまはお隠れになられている。

 この対をなさるお二方は、天の大神と地の大神だが、この大内裏に祀られている天神・地神とは全く違う存在だ。

 この大神以外にも数柱の大神がおられるが、全てお隠れ状態だから、今生で最も力を持つと思って間違いはない。

 その大神だが、すこぶる無欲な神だ。

 独神なので当然なのかもしれないが、全くもって艶事に無関心だし。権力というものにも関心が無い。


 他国では全知全能の絶対的な〝神〟が存在するが、此処中津國には数多の神々がお座され、かの神々の協議によって全てが決定される。

 それは全知全能の神に匹敵する大神が、非常に無欲であり力があるにも関わらず独裁的支配をしないからだ。

 つまり〝欲〟というものを、一切持たれ無い神なのだろう。

 実に不思議な〝神〟だと思う。

 その大神に関わりのある二人が、現在いま此処に存在し、この琴晴の知り得るものとなろうとは……。

 不思議な能力を持って産まれた琴晴が、その事実に興奮と緊張を持たない筈は無い。

 幼い頃から異様なもの達に、好む好まざるなどは無視をされ、関わりを持たされ続けて来た琴晴にとって、大神は究極の存在だ。その存在が寵愛する皇子と、その存在にかしずく神使……。


 琴晴は生唾を飲み込んで、有り難いの拵えた酒を口に含んだ。


「どうだ?美味いだろう?」


 殊更純真な御目をお向けになられて問われるが、高揚して余裕が無くなった琴晴は、頷くしか術を持たない。


「……であろう?孤族のは一番だ。大神様も喜ばれる」


「お、大神様にもお目もじ叶いますので?」


 恐縮したりで琴晴が聞く。


「あのお方は、万事お気になさらぬからなぁ」


 言葉同様に、お気になさらぬ性質たちのお方が、酒を注ぎ入れてくれなが言われる。


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