第41話

「……そう申せば……」


 銀悌ぎんていは、神楽の君様が大慌てで諸々の精達を総動員なされ、お屋敷の隅々までお掃除させておいでのご様子を眺めながら、懐に忍ばせた巻物を差し出した。


巻子本かんすぼんか?」


 神楽の君様が興味津々でお手に取られる。と、銀悌は少し渋い表情を浮かべて、若々しく端整な顔立ちをご誕生の折よりお持ちの、神楽の君様を見つめた。


「……秘術が書かれております」


「秘術?」


「媚術にございます」


「媚術?それはまた……」


 神楽の君様は、表情を明るくされて巻物をガン見される。


「神山の奥深くの洞穴に、隠す様に置かれてありました」


「ほう?」


「我らにも……その様な秘術は操れますが、それはご法度とされております」


「ふむふむ……」


 物凄ーくワクワク感をお隠しにもならずに、巻物を紐解かれておられる。


「それに、我らが神使のとは、別物でございます」


「なるほど……」


 などと相槌をおうちになられておいでだか、全くの処銀悌の言葉など、お耳に入ってはおられないご様子。

 まじまじと食い入る様にご覧になられているのは、その巻物には丁寧な事に、挿絵まで入っているからで、かなり艶かしく描かれている箇所もある。

 元来神楽の君様は、世俗を絶ってお過ごしだから、全くこういった事柄に無関心のお方で、という物に非常な重さを置く〝らん族〟にしては異質のお方だ。

 銀悌は神使だから、瑞獣のそれも〝鸞族〟の事は、噂でしか知りようも無いが、どうやら〝鸞族〟は互いの一途な〝愛〟を、その強大な力の糧としているらしい。つまり互いの思いが強ければ強い程、力は強大となりその身も若く美しくいられる……という事らしいが、目に見えず形の無いその様な物が、それ程の力となるとは想像したところで理解できようはずもない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る