第35話

「…………」


立文たてぶみと致しながらも、思いを隠そうとはされない」


 そのまま視線を留めて真顔を作った。


「今上帝の思いか?」


「おもいだ……」


「思いとは、いろいろとある物だがな……」


「そのいろいろとあるだ」


 白は神楽の君様の、遠くの月を輝き出される瞳を見やる。

 上弦の月は、この世のものとは思えぬ美しさをお持ちの、神楽の君様の瞳の中で一層の輝きを放つ。


「何だ?そんな事でを作っておったのか?」


 白は再び天上の月に視線を移して笑った。


「何が悩ましいのだ?思いもよらぬ相手だからか?我らは人間の様に、くだらぬ縛りは無いからな……気に入ってしまえば生涯を伴にいたす。それは恐ろしく永い年月をだ……。そんな永きの契りゆえ、容易く伴侶を決める事もないが……そうか……弟君ならば、確かに悠長に考えておっては手遅れとなるな、何せ人間の寿命は短い」


「いや、そう言う事ではなくてだなぁ……」


「何だ?人間はえらく短命だぞ、あっ、と言う間に死んでしまう。たらたらとおもんぱかっておったら、さっさと死んでしまうぞ……まっ、閻魔に上手く言い聞かせて……大神様のお許しがあらば、そなたの寿命の内は伴に過ごすは可能か?」


「やや、そうではなくてだなぁ……」


「何がだ?きょうだいはいいぞ、大体考えが似てるからな……血筋は争えん。我ら神使の中でもそういう輩はおるぞ。何せ我らは永きに渡って、生を得ておるからな。合わんヤツと伴にはなれん……確か瑞獣もそうであろう?尊い血筋のものは神気も尊く力が強い筈だ。由緒正しい家柄のものは大体そうだ。そなたの母御は大神の遣いの役を得ておるのだから、かなりの血筋であろう?近親婚は禁じられておらん……」


 神楽の君様は、白の言葉にため息をお付きになられた。

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