第34話

「しかしながら、母御は書かれるのだろう?」


「馬鹿な……代筆させておるに決まっておろう?この様にまどろっこしい事を誰がする?」


「しかし人間共は、が生き甲斐の様なヤツも多かろう?」


「……だろうが、俺にはついて行かれん世界だ」


「……確かに……我らはその様な事をせずとも、互いの事を知り合えるからな」


「そうなのか?お前達は言葉を交わさずとも、思いあえるのか?」


 神楽の君様が興味津々のていで、白を覗き込まれる様にお聞きになられた。


「当然だ。俺達はそんな物など頂かんでも、知りたい事は知り得る。互いの目を見合えば通じるし、思えば通じる」


「それは凄いな……」


「まあな……だが、互いの為に心を読み合う事はせんがな」


「そうなのか?心が読めるのにか?」


「大体をすれば痛い目に合うからな」


 白が知った顔で言うので、神楽の君様はプッと吹き出された。


「つまりは、お主は痛い目に合うたクチか?」


「はっ……まあな……」


 二人は声を出して笑って、簀子に仰向けに横たわった。

 満天の星に、上弦の月が神々しく輝いている。


「弟からの文か?」


 白は夜空を見上げながら聞いた。

 ……とにかく神楽の君様は、世間とはかけ離れてお暮らしだ。

 住処すらも、都から離れた処に置かれているし、摂政様とも関わりを持たれない様にされている。

 摂政様と関わりを持たれなければ、殿上人などと持たれるはずは無い。

 持たれているのはお父君様の上皇様とお母君様と、そうそう二年程前から弟君様の今上帝様だけだ。

 それは神楽の君様の意向だが、お母君様の意向でもあられる。

 白は視線を、隣で上弦の月を見やる神楽の君様へ向けて言った。


「おうよ……弟からの文だ」


「香をたきしめた立文か?」


「そこが困った処よ」


 神楽の君様は、それは美しい深い紫色の瞳を向けて言われた。

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