第32話

「それゆえに、そなたの母御は皇太后に皇子を誕生させた。正統なるあやつの血筋を皇家に残し、青龍が再び主上に抱かれて治世を保たせる為にだ」


 白はしたり顔で、神楽の君様を覗き込んだ。


「そなたの母御はよっぽどに、夫に入れ揚げておるのだなぁ」


 揶揄う様な笑みを浮かべる。


「………………」


「皇家に絶大なる力を与えたいのだ……。龍の中でも青き龍は強大な力を保持している。だが、龍は元来気ままゆえ、一つ所に永遠とは落ち着かんが、という物がある。大体を持った者に惹かれる。ゆえにいにしえより王家が永きに渡り栄えるもゆえ、他者にとって代わられるもによるのだ」


「龍抱きし者が天下を抱く……」


「その通りだ。どの国の王家も、龍を象徴としたがるはその為だ。そなたの母御は、入れ揚げ過ぎの夫の血筋に、名実とものを与えたいのよ。その為ならば、龍を抱けしすらも利用するのさ」


「お母君様はその様な物に、無関心なお方だぞ」


「朱よ、分かっちゃいないな。そなた達には無縁の物でも、この世の者には必要不可欠なものよ。今上帝は分からんが、は欲する、上皇の血筋が誕生した時に、その力を与えてやりたいのさ……上皇が余りに無欲で母御に一途ゆえに、情が半端無い物と化したのだろう?上皇が何処かに残して来たその一部を、拾って来た子孫に与えてやりたいのさ。何故ならその一部も上皇のだからだ……。噂には聴いていたが、鸞一族の情の深さとは、俺らには計り知れないものだ」


「……一族と一括りにしないでくれ。お母君様は、鸞一族の中でも特殊なのだ。独占欲、嫉妬心は随一だ……ゆえに私にはきょうだいはいない。あれ程の美貌でありながら、上皇様以外に、お母君様を満足させる愛情を示せたものがいないからだ……つまりは……」


 神楽の君様はそう語って、結局頭を抱えられているに行き当たってしまわれた。


 ……つまりは、逃れる事は不可能か……

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