第31話

 神楽の君様はそんなお母君様だから、ただただ一途に愛情をお妃様に捧げられる、上皇様でよかったとずっとお思いでご成長された。

 で、無ければ今頃大変な事になっている。


 ……それこそ世が乱れてしまっている事だろう……


 ともお思いになられる。

 ……がしかし、ここへ来て我が身に降りかかって来れば、そう悠長なことを思っておいでではいられない。

 母君様と平気で番いとなられ、なんの苦もなく蜜月の日々をお過ごしになられる上皇様に、負けず劣らずの忍耐力……執着心……深過ぎる愛情なる物を含めて、皇子の中で一番濃くその血を引いていると噂される今上帝の思い人が、事もあろうに我が身であろうとは……。

 母を知り父を知る神楽の君様が、悩まれないはずはない。

 ……のに、父の様に一途過ぎる弟の、その思いを受け入れ、女となりて生涯を捧げよ、と絶大な力を持つ母君様に申しつけられてしまわれた。

 あれは


「考えられよ」


 では無い。


「命ずる」


 だ。


 つまり……そう云う事だ。

 悩んで嘆息をお吐きになられずに、いられようか……。


 お返事を返す事もおできにならずに、再び大きな嘆息をお吐きになられる。


「朱よ。目の下にクマができておるぞ……」


 白は可笑しそうに、チョンと目の下を突いて言う。


「朱よ。何を思い悩んでおる?そなたの母御はらん一族で群をぬいた瑞獣よ。大神様に寵愛頂くのも理解わかると云うもの。よいか、摂政は青龍を抱きし者よ。ゆえにあやつの血筋から皇帝が誕生する。青龍は力を好む……ゆえにあやつは権力を欲するのだ……天下人としての権力を欲するのだ。龍の力は神獣の中でも一番だからな……だが、龍は気ままな性格だ、気に入った者には抱かれはするが、長きに渡って居続ける事は無い。つまりはその栄華もあやつ一代限りよ」

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