第三巻

第29話

 此処、中津國なかつくには大神も神もあやかしも物の怪も、鬼等の魑魅魍魎ちみもうりょう達がウジャウジャ存在する、それは稀有なる国だ。


 他国でも平安の治世に遣わされるという瑞獣ずいじゅうが、神から皇帝に遣わされ、その美しさと魅力に取り憑かれた皇帝が、その瑞獣を頂いて妃としそれは寵愛したという話しがある。

 そしてその妃は皇后となり皇子を産んでその子を皇太子とし、皇帝を徐々に衰弱させ帝位を狙ったが、その目論見を陰陽師に見破られ退治された、と云う伝説が存在する。


 だが、帝位を確かに狙ったか否かは別として、神が遣わした瑞獣を、高々の人間如きが退治する事は、もはや世の乱れを意味する事だ。

 当然の事ながらその国は、帝位を巡る血の争いと、それに乗じた世の乱れが永きに渡って続いた。

 そして二度と、神からの遣いは無かったという。


 さて此処中津國には、強大なる力を持つ大神が座される。

 天が誕生させる大神は、この国に数多あまたと座す神々とは、比べ物にならない〝力〟を持っておられるから、それこそお怒りを買ったら、他国の乱世等とは比較にならないだろう。


 そして瑞獣ずいじゅうらんの一族は、一途と云えば聞こえはいいが、物凄く独占欲が一族だ。

 その中でも最上級に由緒正しく、美貌に長けたお妃様の家系は、他の瑞獣達すら呆れる程の独占欲の持ち主だ。

 言い換えれば、情が物凄ーく物凄ーく濃く深い。

 愛情が物凄ーく物凄ーく、疎ましい程に深い。

 番いになれば、その気が遠くなる程の長い生涯を、他所に向ける事無く過ごされる。

 そんな気持ちが悪い程の愛情を、ひたすら持ち続ける忍耐力というか執着には、多少人間の血が混ざっておいでの所為か、お母君様が言う通り大神の影響を受けておいでの所為か、執拗なまでの〝愛〟に対する拘りに辟易としておられるのが、なんと瑞獣一と豪語しても過言では無い〝独占欲の塊〟と云うべき、かの美しき上皇様のお妃様を母に持つ神楽の君様だ。

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