第28話
「妃よ……そなたも男になれるのか?」
上皇様はお悩みになられた果てに、なんとも此の期に合わぬ事をお言葉とされた。それにお妃様はにこやかな微笑みを浮かべられ、慈愛に満ちたお顔をお向けになられる。
「上皇様がお望みとあらば……」
「うーん……やはり私は、今のそなたがよいな……」
「ほほほ……上皇様、私は朱よりも美しい公達となりますよ?」
「うっ……」
上皇様はフッと想像を巡らされて、それはうっとりとしたご表情を作られた。
……確かに……
上皇様は思い倦ねられた。
お妃様が傍におらねば神楽の君様の美貌は、上皇様とてイチコロであられられるかもしれない。
……そう考えたら、今上帝が妃に思いを寄せぬだけ良いかもしれぬ……
さても、この世のものでないものを、尊過ぎるお方から授けられるは、幸か不幸か分からぬものよ……
上皇様はしみじみと思われて呟かれた。
今上帝様は容姿も性格も、上皇様に一番似ておいでだ。
まさか嗜好……好みまでこうも似てしまったとは……。
そして物凄ーく一途ときていて、思いが深いからあっちの女官こっちの女房へと気移りはしないし、体質的なものなのか、興味のある相手にしか欲情もしない。
上皇様とて、后妃は然程多い方ではなかった。
お妃様からの提案でお相手ができない間、女官や皇后と関係を持ったが、その頃には上皇様も、散々お妃様の女体に溺れらておいでの経験があるから御子を授けられたが、そっちの話しが出ると体調を崩してしまわれ、なかなか皇后様との初夜の儀を行えずにいる、今上帝様の所業は無理からぬことと、ご自分に置き換えられてご思案なされた。
「……ゆえに体調を崩すのか……」
なかなか進まぬ、今上帝様と皇后様の初夜の儀の、その理由を理解なされて、頭を抱えられた。
「困り果てた我が血である」
光りを放つ程に美しい我が妻を見つめて、上皇様は大きなため息をお吐きになられた。
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